この記事では、「因果関係」の成立に必要な3つの条件と、「反実仮想」に基づく因果関係の定義、潜在的結果モデルと「因果推論の根本問題」の関係について解説します。
<目次>
因果関係の成立に必要な3つの条件
「因果関係」とは、2つの要因の間にある「原因」と「結果」の関係性であり、「ある要因Xを変化させることによって(=原因)、他の要因Yも変化する(=結果)」ということを指します。この因果関係を、データを用いた分析等によって明らかにすることを「因果推論」と呼びます。
これは一見、簡単なことに見えますが、2つの要因間の関係が確かに因果関係であることを示すためには、以下の3つの条件が成立していることの証明が必要と考えられています1。逆に、これらの条件が成立していることを適切に示せない場合は、因果関係の有無や強さ、方向性について誤った判断をしている可能性があり、これらの条件について理解することは、因果関係を考える上で非常に重要です。
①共起関係(相関関係)
1つ目の条件は、原因と見なされる要因Xと、結果と見なされる要因Yの間に、「XとYが同時に発生している」という共起関係や、「XとYが同時に変化している」という相関関係が成立していることです。「Xが生じているとき、Yも生じている」「Xが変化しているとき、Yも変化している」といった形で表現される関係性に該当します。
例えば、ある「学習塾への入会」の「志望校への合格」に対する因果関係を知りたいケースを考えます。「学習塾への入会」と「志望校への合格」が同時に生じていた場合、この2つの間には、一定の因果関係があった可能性が生まれます。当然ですが、もし学習塾へ入会していないにも関わらず、志望校へ合格した場合、「学習塾への入会」と「志望校への合格」の間に因果関係があった可能性はありません。
ただし、この条件が成立するのみでは、両者の間に因果関係があったと特定することは出来ません。因果関係の存在を特定するには、他の2つの条件が成立している必要があります。
②方向性(時間的先行)
2つ目の条件は、原因と見なされる要因Xと、結果と見なされる要因Yの間に、「XがYに対して時間的に先行している」という方向性が成立していることです。「Xが生じると、Yも生じる」「Xが変化すると、Yも変化する」といった形で表現される関係性に該当し、1つ目の条件の場合とは違って、XとYの関係に「X→Y」という方向性が明示されています。
「学習塾への入会」と「志望校への合格」の関係の例では、学習塾への入会が、志望校への合格という結果に対して、時間的に十分に先行していることを意味します。学習塾への入会が、志望校の受験日よりも後に生じている場合、もちろん両者に因果関係は成立しませんが、学習塾への入会が受験日の直前(前日など)であった場合も、たとえ時間的に先行はしていても、両者の間に因果関係が存在する可能性は低いと考えられます。
③特異性(疑似相関の排除)
3つ目の条件は、原因と見なされる要因Xと、結果と見なされる要因Yの間に見られる共起関係が、別の要因である「要因Z」によって引き起こされた「見せかけの相関(疑似相関)」ではなく、要因Xによって特異的に要因Yが引き起こされている、という関係が成立していることです2。「(別の要因によってではなく)Xが生じることによって、Yも生じる」「Xが変化することによって、Yも変化する」という形で表現される関係性に該当します。
「学習塾への入会」と「志望校への合格」の関係の例では、志望校への合格という結果が、生徒の元々の学力の高さや、学校や家庭など学習塾以外の場での勉強の結果によって生じたのではなく、まさに「学習塾への入会」によって生じた(他の要因が全く同じでも、学習塾に入会しなければ志望校には合格しなかった)、という関係が成立する場合、それは「見せかけの相関」ではなく、確かに因果関係であると見なすことが可能となります。
反実仮想と因果関係
反実仮想に基づく因果関係の定義
先ほど、志望校への合格という結果が学習塾への入会によって生じた、別の言い方をすれば、「他の要因が全く同じでも、学習塾に入会しなければ志望校には合格しなかった」という関係が成立する場合、それは因果関係であると見なすことができると述べました。
「仮に学習塾に入会しなければ、志望校には合格しなかった」というように、実際には観測されなかった「反事実」について考えることによって因果関係を定義するアプローチを「反実仮想」と呼びます。
「反実仮想」においては、「原因である要因X以外の要素については全て同じ」、学習塾の例で言えば「学習塾への入会有無という点以外においては全て同じ」状況を仮想し、「もし学習塾へ入会していなければ、志望校には合格しなかった」ということを示すことで、学習塾への入会と志望校への合格という2つの要因の間に、因果関係が存在することを特定します。
潜在的結果モデルと「因果推論の根本問題」
「反実仮想」を用いることの利点は、それにより因果関係に関する整理や分析が行いやすくなることです。「反実仮想」に基づく因果推論の理論的枠組みが、Donald Rubinによる「潜在的結果モデル」(potential outcome model)と呼ばれるものです3。
潜在的結果モデルは、実際には変化した要因Xについて、「要因Xが変化しなかった場合」という『反事実』を仮定し、「(他の要因は全て同じ前提で)仮に要因Xが変化しなかった場合、要因Yがどうなっていたか」という『潜在的結果』を考えることで、要因Xと要因Yの因果関係を推測します。
しかし、「反実仮想」による因果関係の特定には、重大な問題があります。それは、結果としての要因Yについて、要因Xが変化した場合の状態と、要因Xが変化しなかった場合の状態を「同時に」観測することはできないということです。
要因Xが変化する場合・変化しない場合のそれぞれについて2回観測すればよい、と考えたくなりますが、この場合、1回目と2回目の観測では様々な条件が変化している可能性があり、「全く同じ」条件は成立していないと考えることが妥当です。つまり、要因Yの状態について、要因Xが変化した場合としなかった場合を同一条件で両方観測することは不可能であり、これを「因果推論の根本問題」と呼びます4。
因果推論の根本問題は、潜在的結果モデルによって因果関係が定義されることによって、はじめて明確になったものです5。これによって、(1つの個体に関する)因果関係を把握することは実際には不可能であり、因果関係を特定するには、その前提について何らかの制約を置くことや、条件を緩和することが必要であるという事実について理解することが可能となります。
この問題に対して、条件を緩和することで解決を図る代表的な手法が「ランダム化比較試験(RCT)」と呼ばれるものです。RCTは、一個人や一個体については把握が不可能である因果関係について、複数の個人や個体から成る「グループ」における「平均的な因果関係」を把握することを目指す手法であり、因果関係の特定において最も信頼性の高いアプローチであると考えられています。
ここまで、因果関係の成立に必要な条件や、反実仮想による因果関係の定義と潜在的結果モデルについて解説しました。RCTの詳細や因果関係の特定に関するその他の手法については、以下のページをご覧ください。
また、因果推論に関する全ての記事は、以下のページからご覧いただけます。
参考文献・注記:
1. 佐藤郁哉 (2015) 『社会調査の考え方[下]』東京大学出版会、など
2. 林岳彦 (2024) 『はじめての統計的因果推論』岩波書店
3. Rubin, D. B. (1974) “Estimating causal effects of treatments in randomized and nonrandomized studies,” Journal of Educational Psychology, 66(5), 688–701
4. Holland, Paul W.(1986) “Statistics and causal inference,” Journal of the American Statistical Association, Vol. 81, No. 396, pp. 945-960
5. 川口康平・澤田真行 (2024)『因果推論の計量経済学』日本評論社