セオリーオブチェンジとロジックモデル|その意味・目的と違い

この記事では、「セオリーオブチェンジ」と「ロジックモデル」について、それぞれの意味・目的と、両者の違いや共通点を具体例をもとに解説します。

両者の意味と目的

社会課題の解決を目指す事業などにおいて良く使われるツールとして、「セオリーオブチェンジ(変化の理論)」と「ロジックモデル」の2つがあります。

どちらも事業を特定の視点からプロセスに分解し、各プロセス間の関係を論理的な繋がりとして視覚的に表現する、という点では共通していますが、両者は本来異なる目的を持ったものです。

両者の違いや共通点を理解することで、両者を適切に使い分け、事業の構築や改善、アカウンタビリティ向上に役立てることが可能です。

セオリーオブチェンジとは何か

セオリーオブチェンジ(変化の理論)とは、以下のように定義されるものです。

プログラムによって何故その対象に変化が起こるのか、ということを変化の論理的連鎖として示したもの1

意図する社会的な変化が起きるプロセスを、プログラムの基盤となる仮説から、長期的ゴールまでの過程として描いたもの2

これらの定義が示唆する通り、セオリーオブチェンジは、プログラム(事業)が目指す変化がなぜ起こるのかを、プログラムの「活動(アクティビティ)」と「成果(アウトカム)」の間の論理的な繋がり(logical connections)として明らかにするもの、と理解できます2

なお、ここでの「変化」が意味しているのは、あくまでプログラムが対象とする人や集団、組織、社会などにおける変化のことであり、プログラムのプロセスにおける変化ではないことに注意が必要です。

セオリーオブチェンジを作成することで、プログラムが対象とする問題やプログラムの目的に対する理解の解像度を高め、何がどのように為されるべきかについて、より鮮明なイメージを持つことができます。また、「プログラムの意図する変化がなぜ達成されるのか」のロジックが可視化されることで、事業の関係者が、変化を理解し、変化のプロセスを管理し、その効果を測ることが可能となります。

セオリーオブチェンジに決まった形はなく、その形式や体裁、規模感などはプログラムの特性や作成する目的によって様々です。一般的には、テキストボックスや矢印を使うことで、プロセス(ロジック)の流れや各要素間の関係性を視覚的に表現します。

以下の作成例は、「低所得家庭の子供における社会的状況の改善」、という社会課題を想定したセオリーオブチェンジです。プログラムが介入すべき対象を「家庭とその近隣の社会的資源の繋がり」と設定し、その実現が「子供の社会的状況の改善」に繋がるまでの変化のプロセスを描いています。

セオリーオブチェンジ作成例

作成:Intelligence In Society

ロジックモデルとは何か

一方、ロジックモデルは、事業やプログラムなどの取り組みが目指す成果・目的と、その達成のために用いられる手段との関係を、体系的かつ論理的に表現したモデルのことを指します。

ロジックモデルの基本要素は以下の4つから構成されます。

  • 投入(インプット)    :事業に対して投入される人・モノ・カネ・情報などの資源
  • 活動(アクティビティ):インプットを使い行われる実際の活動
  • 産出(アウトプット)   :活動の結果として生み出される財・サービスなど
  • 成果(アウトカム)    :事業の実施後における社会の状態の変化

また、「成果(アウトカム)」は、成果が実現される時間軸やその影響範囲によって、

  • 事業による直接的な成果を表す「直接アウトカム
  • 最終アウトカムの実現に貢献する成果を表す「中間アウトカム
  • 最終的に実現を目指す社会の状態を表す「最終アウトカム

の3つに分けられ、特に「最終アウトカム」は「インパクト」とも呼ばれます。

ロジックモデルは、事業やプログラムにおける目的達成の手段としての「活動」と、最終的な「成果」の間に、「論理的にはこのような関係が成立するだろう」という『仮説』を記述するものです。これにより、事業が最終的に目指す成果が、「どのような活動の結果として実現されるのか、その活動を行うために必要な資源はどのようなものか」、という論理構造が可視化されます。

また、ロジックモデルを作成することで、事業に携わる人々が共通の認識を持つことができるとともに、事業の支援者に対しても、事業の価値や妥当性を明確に示すことが可能となります。

ロジックモデルの作成においては、プログラムの目的と手段が過不足なく表現される必要がありますが、そのためにどのような項目が記載されるべきかは、プログラムの特性や作成の目的によって異なります。実際の事例においては様々なバリエーションが存在し、評価のニーズに基づいて構成や記載内容が判断されます。

以下の作成例は、生活困窮状態にある若年層に対して、SNSを使ったコミュニケーションによるアウトリーチを行うことで、困窮者支援に関する情報の提供や、支援申請手続きのサポート行うプログラムを想定した、フローチャート型のロジックモデルです。

ロジックモデル作成例

作成:Intelligence In Society

両者の違いと共通点

①どのような疑問に答えるものか

セオリーオブチェンジとロジックモデルの最も重要な違いの一つは、「どのような疑問に答えるためのものであるか?」という点です。

セオリーオブチェンジが、「なぜプログラムを通じて、その対象に変化が起きるのか」を指す『Why』の疑問に答えるものであるであるのに対して、ロジックモデルは、「どのようにプログラムを行うことで、その対象の変化を促すのか」を指す『How』の疑問に答えるものです1

この目的の違いは、両者の形式にも反映されています。「なぜ」に対する答えであるセオリーオブチェンジでは、プログラムの「介入」から「成果」までのプロセス(ロジック)のみが扱われるのに対し、「どのように」に対する答えであるロジックモデルでは、プログラムに必要な資源を意味する「投入」から扱い、実際のプログラム実施に必要となる各要素をカバーすることが基本形となっています。

②成果の構造化の有無

もう一つの大きな違いは、プログラムにおける「成果(アウトカム)の構造化の有無」です。

ロジックモデルでは、産出から最終成果に至るプロセスが、「時系列レベル」と「影響範囲」の2つの軸のいずれか(または両方)で構造化されることが一般的です。「時系列レベル」の構造化は、上記の例において「直接アウトカム」「中間アウトカム」「最終アウトカム」の形で、成果の現れる時間軸に応じた複数のアウトカム設定をしている点が該当します。

また、「影響範囲」による構造化は、そのアウトカムが「①個人など個の対象における変化に関するものか」「②グループなど特定の集団における変化に関するものか」「③地域社会や高次の組織体などにおける変化に関するものか」によって行います。

先の例では、「プログラムの対象者個人における変化」が①、「生活困窮状態にある若年層という集団における変化」が②、「若年層の困窮状態の改善によって生じる地域社会における変化」が③、というように構造化することが想定されます。

それに対し、セオリーオブチェンジにおいて成果が複数の定義で構造化されることは一般的ではなく、あくまでターゲットとする一つの最終成果について、プログラムによる介入からそこに至るまでの変化のプロセスを描くことが中心となります。

セオリーオブチェンジが「なぜ(Why)」の疑問に答えるものであるのに対し、ロジックモデルが「どのように(How)」の疑問に答えるものであるとういう点の違いが、プログラムにおける「成果(アウトカム)の構造化の有無」という点にも反映されていると言えます。

両者の共通点

両者の違いは上記のように整理ができる一方で、実際の実務における利用においては、両者が明確に区別されず、両者のハイブリッド版と呼べる形式のものが多くのケースにおいて使用されています。どのような形式が適切かは、作成の目的やプログラムの特性、運営組織や出資団体の志向性などによって様々です。

実際、ロジックモデルの類型の一つである、体系図型のロジックモデルは「目的から出発して必要な手段を考える」ことに特化し3、扱う対象も「事業・活動」~「最終成果」の範囲に限定されたものとなっています。その目的・形式ともに、セオリーオブチェンジに近いものとなっており、セオリーオブチェンジとロジックモデルのハイブリッド型の一つと捉えることができます。

【体系図型のロジックモデル】

ロジックモデル_体系図型

作成:Intelligence In Society

ここまで、「セオリーオブチェンジ」と「ロジックモデル」について、それぞれの意味・目的と、両者の違いや共通点を解説しました。

セオリーオブチェンジとロジックモデルに関する詳細は、以下のページからご覧いただけます。

 

また、プログラム評価や社会的インパクト評価に関する全ての記事は、以下のページからご覧いただけます。

参考文献・注記:
安田節之 (2011)『プログラム評価ー対人・コミュニティ支援の質を高めるためにー』, 新曜社
Grantcraft (2018), “Mapping Change – Using a Theory of Change to Guide Planning and Evaluation”. https://learningforfunders.candid.org/wp-content/uploads/sites/2/2018/12/theory_change.pdf (2025年9月12日最終閲覧)
3. 佐藤徹(2021)『エビデンスに基づく自治体政策入門』, 公職研

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