外生要因とは|その意味・種類と対処法

この記事では、事業やプログラムによる効果の測定において課題となる「外生要因」について、その意味や主な種類、それらへの対処法を具体例をもとに解説します。

「外生要因」とは何か

「外生要因」の意味

プログラム評価などを通じて事業やプログラムの効果を明らかにする際、その適切な評価において課題となるものに、「外生要因 (Extraneous factors/variables)」があります。

「外生要因」は、『実験や観察を通じてその効果を測定する対象である「処置(原因)」を除く全ての要素の中で、「結果」に影響を与える可能性のある全ての要素』を意味します1

事業やプログラムなど、ある処置(原因)が対象に及ぼした効果を適切に把握するためには、「外生要因」による影響がコントロールされ、因果関係の特定に必要な「正しい比較」が行われている必要があります。

例として、ある企業において売上に対するWEB広告の効果を把握したいケースを考えます。広告を出す前と比べて出した後の売上が伸びた場合、広告に売上を伸ばす効果があったと言えるでしょうか?

この場合、この企業の他の施策や、競合他社の動き、マクロな市場環境など「広告以外」の要因によって売上が伸びていた可能性があり、広告掲載前後における売上の変化が、広告の効果なのか、それ以外の要因によるものなのかを正しく判断することができません。

この例における「この企業の他の施策」「競合他社の動き」「マクロな市場環境」などが「外生要因」に該当します。「外生要因」について考慮し、適切に対処することは、取り組みによる因果効果を適切に把握する上で必須の要件となります。

計量経済学における「外生変数」との違い

一方、「外生要因」と良く似た言葉に、計量経済学における「外生変数 (Exogenous variables)」があります。

「外生変数」とは、『変数間の関係性を表したモデルにおいて、誤差項と相関を持たない変数2のことを指します。「誤差項と相関を持たない」とは、別の表現では「系統的なバイアスを生じさせない」ということであり、そのモデルをもとに評価した因果効果の推定結果を歪める要因とはならない変数のことを意味します。

その逆に、因果効果の推定結果を歪める要因となる変数を「内生変数」と呼びますが、重要な点は、ある変数が「外生」であるか「内生」であるかは想定しているモデルによって決まるものであり、想定するモデルが変われば、その変数は「外生」にも「内生」にもなり得るということです。

先ほどの、ある企業における売上に対するWEB広告の効果の例では、「この企業の他の施策」「競合他社の動き」「マクロな市場環境」などは、いずれも結果である売上に影響を与える可能性のある「外生要因」でした。

一方、WEB広告の因果効果を推定するモデルにおいて、もし「マクロな市場環境」については売上への影響を正しくモデルに含めることができた一方で、他の2つについては適切な指標がなく、それができなかったとした場合、このモデルにおいて「マクロな市場環境」は「外生変数」、他の2つは「内生変数」と定義されます。

主な「外生要因」の種類と対処法

あらゆるケースで生じうるもの

外生要因には多様なものが存在しますが、以下に主な外生要因の種類とその対処法について解説します。まずは、どのようなケースにおいても生じうる外生要因についてです。

対象の選択に起因するもの(選択バイアス)

外生要因の中で最もよく生じるものの一つであり、また適切な因果効果の推定に対する影響が大きいものに、対象の選択に起因する「選択バイアス (selection bias)」があります。

これは、処置群と統制群、あるいは母集団に対するサンプル集団が、因果効果に影響する属性について異なる分布となっていることにより、正しい比較や推定結果の一般化が行えず、因果効果の特定の妨げとなることを指します。

例として、ある自治体が「介護職人材不足の解消」に向けた施策を検討しており、「身体的負担の軽減」が、介護職人材の「定着の促進」に対する効果を持つ、という仮説を検証する場合を考えます。

特定の介助支援機器の導入が、介護職員の身体介護における負担(身体的負担)を軽減することが予め知られている場合、その介助支援機器を導入している施設群と、導入していない施設群における介護職員の定着率の平均値を比較する、という形が良く行われる検証方法ですが、このケースで生じているのが「選択バイアス」です。

この場合、その介助支援機器を導入している施設は、導入していない施設に比べて経営状態が良好であり、定着率の差は機器導入の有無ではなく、実際には給与水準や、情報管理システムの整備による業務のしやすさなど、機器導入以外の要因によって生じている可能性があります。

選択バイアスの事例

作成:Intelligence In Society

選択バイアスへの対応は、それを生じさせない環境でデータを取得することが最善であり、そのための代表的な方法がランダム化比較試験(RCT)による処置の無作為割当です。また、因果推論の手法には、RCTの実施が難しいケースにおいても利用可能な、選択バイアスへの様々な対応方法が用意されており、これらの手法を活用することが選択バイアスへの有効な対処方法となります。

因果推論の主な手法についてはこちらの記事をご覧ください。

データの測定に起因するもの(情報バイアス)

データの測定に起因する「情報バイアス (information bias)」も、実際の評価において高い頻度で発生する外生要因の一つです。これには、データの欠測、データの入力ミス、測定方法のバラつき、記憶違い、情報の非開示、対象者のクラス分けにおけるミス、などが含まれます。

特に、データが観測されず取得できないことを意味する「データの欠測」は実務における課題となりやすく、分析者を悩ませるものの一つですが、欠測データへの対応方法はその性質によって異なります。

欠測が、その変数自身の値や他の変数の値などに全く依存せず無作為に発生していると見なせる状態を、MCAR (Missing Completely At Random)と呼びますが、MCARの場合、欠測が発生している行全体を削除する「リストワイズ除去」を行っても、分析に偏りは生じません3

一方、欠測が他の変数の値とは無関係に発生しているものの、その変数自身の値に依存して発生している場合 (MAR: Missing At Random)には、リストワイズ除去を行うとバイアスが発生するため、多重代入法などによる対応が必要となります3

実験などの「あり方」に起因するもの

実験などを通じて因果効果の測定を行う際、実験などの「あり方」、特に実験が人間の行動や心理に与える影響が、真の因果効果の把握の障害となることがあります。このようなケースに生じる外生要因として代表的なものが「プラセボ効果 (placebo effect)」です。

プラセボは「偽薬」を意味しますが、本来効果のない偽薬を投与された患者の症状が、偽薬の暗示的な効果によって改善することを「プラセボ効果」と呼び、投薬以外の実験において生じる対象者への暗示的な効果ついても同じ呼び名が使われています。

また、実験の対象者だけでなく、実験を行いその効果を「評価する側」も、「処置が行われた(本物の薬が投与された)」という事実を知っていることから生じる心理的な暗示によって、無意識のうちに評価にバイアスが生まれる可能性があります。このような「期待」が持つ影響は「ピグマリオン効果 (pygmalion effect)」と呼ばれます。

これらの、処置を受ける側とそれを評価する側の双方に生じる心理的なバイアスへの対処法として広く用いられている方法が、「二重盲検法 (DBT: double blind test)」です。二重盲検法では、実験による処置の対象者だけでなく、それを評価する者も、誰がどちらのグループに割り当てられているのかを知らない状態で実験を行うことで、評価結果にバイアスが入り込むことを防ぎます。

予測不可能なショックに起因するもの

自然災害や経済的ショック、想定外の事件事故など、突発的に生じた予測不可能なショックも、外生要因の一つです。

ショックによる影響が、処置群と統制群の双方に対して同じ条件で発生し、結果に対する影響も同等であると考えられる場合、因果効果の適切な推定を妨げる要因とはなりませんが、そうではない場合は、因果効果の推定にバイアスを生じさせます。

これに対する対処法は、分析の目的や文脈、ショックの性格などによって様々であり、それらを踏まえて総合的に判断する必要があります。もし、ショックがもたらす処置変数や結果変数への影響を適切にモデル化できるのであれば、そのモデルを通じてショックの影響をコントロールすることが可能ですが、現実にはそうではないケースがほとんどです。

その場合、ショックが発生する前の期間までのデータに限定して分析する、ショックを受けていない対象に絞って分析対象とする、といった方法が考えられます。また、それぞれのグループのデータが処置発生前後の長い期間で取得できる場合は、差の差法の類型である合成コントロール法などを使うことで適切な因果効果の推定が可能となるケースがあります。

特定のケースで生じうるもの

また、複数期間(長期間)に渡る対人プログラムなどにおいて発生しやすい外生要因には、以下のようなものが挙げられます。

平均への回帰

平均への回帰 (regression towards the mean)」は、「平均から大きく離れた値の予測因子(説明変数)を持つ観測は、その予測因子に比べてより平均に近い値の結果を得る」、という現象のことを差し、この現象は、偶然のみによって生じることが知られています4

これは例えば、親の身長が高ければ、子供の身長も高くなる傾向があるものの、親に比べて子供の身長は平均に近づく傾向があることを意味します。

例として対人プログラムにおいて、対象者の状態をスコア化し、スコアの悪い人を対象に処置を行うケースを考えます。処置の前後において複数回そのスコアを測定する場合、極端に悪いスコアだった対象者のスコアは、平均への回帰によって改善していく可能性があります。

この場合、実際にはプログラムに効果がないにも関わらず、処置の前後で対象者のスコアの上昇が見られることで、プログラムに効果があったと誤った結論に達してしまう可能性があります。

モータリティ

モータリティ (mortality)」は、プログラムの対象者が、プログラムの途中で離脱してしまう状況を指します。モータリティによる因果効果の推定への影響は、その発生の仕方によって変わりますが、これは上記の「欠測データ」の考え方に通じます。

もし対象者の途中離脱が、対象者の特徴やプログラムの性格と無関係な偶発的な要因によって発生しているのであれば、それは欠測データにおけるMCAR (Missing Completely At Random)に対応し、リストワイズ除去によって偏りのない因果効果の推定が可能です。

一方、対象者の途中離脱が、その対象者のプログラムに対する適正や動機付けといった要因と関連している場合、リストワイズ除去では因果効果の推定にバイアスが生じる可能性が高く、それ以外の方法によって出来るだけバイアスを小さくする対応が必要となります。

成熟

成熟 (maturation)」は、プログラム実施期間中にプログラムの対象者に生じる発達的な変化を指し、これには心身の成長や知的能力の向上(または低下)、社会経験の習得など、プログラムとは関係なく生じる変化が含まれます5

例えば、子供向けの学習支援プログラムにおいては、プログラムの効果と、プログラムとは無関係に生じる子供の発達による影響の両方が混在した形で観測されるため、プログラムの因果効果を把握するには、RCTによる適切な対称群の設定など、事前のプログラム設計が極めて重要となります。

ここまで、事業やプログラムによる効果の測定において課題となる「外生要因」について、その意味や主な種類、それらへの対処法を解説しました。

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参考文献・注記:
1. Simply Psychology (2023), “Extraneous Variables In Research: Types & Examples”. https://www.simplypsychology.org/extraneous-variable.html (2025年9月29日最終閲覧)
2. 西山慶彦・新谷元嗣・川口大司・奥井亮 (2019) 『計量経済学』有斐閣
3. 高橋将宣(2022) 『統計的因果推論の理論と実装 ― 潜在的結果変数と欠測データ ― 』共立出版
4. Kosuke Imai, Nora Webb Williams. (2022) “Quantitative Social Science – An Introduction in tidyverse,” Princeton University Press.
5. 安田節之 (2011)『プログラム評価ー対人・コミュニティ支援の質を高めるためにー』, 新曜社

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