ロジックモデル|その目的と種類、具体例について

この記事では、「ロジックモデル」とはどのようなもので、何の目的で作成するのか、その内容や構成にはどのような種類があるのか、について実際の作成事例を交えて解説します。

ロジックモデルの目的と価値

ロジックモデルとは何か

ロジックモデルは、事業やプログラムなどの取り組みが目指す成果・目的と、その達成のために用いられる手段との関係を、体系的かつ論理的に表現したモデルのことを指します。

ロジックモデルの基本要素は以下の4つから構成されます。

  • 投入(インプット)    :事業に対して投入される人・モノ・カネ・情報などの資源
  • 活動(アクティビティ):インプットを使い行われる実際の活動
  • 産出(アウトプット)    :活動の結果として生み出される財・サービスなど
  • 成果(アウトカム)    :事業の実施後における社会の状態の変化

また、「成果(アウトカム)」は、成果が実現される時間軸やその効果の波及プロセスによって、

  • 事業による直接的な成果を表す「直接アウトカム」
  • 最終アウトカムの実現に貢献する成果を表す「中間アウトカム」
  • 最終的に実現を目指す社会の状態を表す「最終アウトカム」

の3つに分けられ、特に「最終アウトカム」は「インパクト」とも呼ばれます。

以下は、最も基本的なロジックモデルの構成の一例です。インプットから最終成果に至るまでの論理構造が、一つの流れとして表現されることが、ロジックモデルの大きな特徴です。

作成:Intelligence In Society

ロジックモデルを作成する目的

ロジックモデルは、事業やプログラムにおける目的達成の手段としての「活動」と、最終的な「成果」の間に、「論理的にはこのような関係が成立するだろう」という『仮説』を記述するものです。仮説が明示されることで、活動と成果の間の実際の関係性を事実として示すためには、どのような「エビデンス」が必要であるかが明確になります1

近年その必要性に対する認識が高まっている「EBPM(エビデンスに基づく政策立案)」を実践する場合などにおいては、ロジックモデルが作成されることで、その政策がどのような仮説のもとに行われるのか、その政策による「効果」はどのようなエビデンスによって示されるのか、を関係者や市民が理解することが可能となります。

また、プログラム評価においては、評価を行う前の準備としてロジックモデルを作成し、評価プロセス全体に渡ってこれを活用します。プログラム評価は、「プログラム」を「作戦」と捉え、「いかに質の高い作戦を策定するか」「作戦をいかに効果的に遂行するか」に重大な関心を持つため、その前提として、ロジックモデルによって作戦の構造(目的・手段)がしっかりと把握・記述される必要があるためです2

ロジックモデルを作成することにより、事業が最終的に目指す成果が、「どのような活動の結果として・なぜ実現されるのか、その活動を行うために必要な資源はどのようなものか」、という論理構造が可視化されます。これによって、事業に携わる人々が共通の認識を持つことができるとともに、事業の支援者に対しても、事業の価値や妥当性を明確に示すことが可能となります。

ロジックモデルの作成方法

代表的な類型

ロジックモデルには、プログラムの目的と手段が過不足なく表現される必要がありますが、そのためにどのような項目が記載されるべきかは、プログラムの特性や作成の目的によって異なります。実際の事例においては様々なバリエーションが存在し、評価のニーズに基づいて構成や記載内容が判断されます。

ロジックモデルの代表的な類型としては、以下のようなものが挙げられます。

①フローチャート型のロジックモデル
構成要素間の関係を矢印で示します。先ほど挙げた、最も基本的なロジックモデル構成の例は、単線のフローチャート型に該当し、単一事業のロジックモデルなどにおいて利用されます。
複数の事業を束ねた「施策」や「プログラム」においては、複線のフローチャート型ロジックモデル1が使われます。複線のフローチャート型モデルには、インプットから成果までの流れを「左から右」「右から左」「下から上」に表現するものなどのバリエーションが存在します。

【フローチャート(横型)のロジックモデル】

作成:Intelligence In Society

【フローチャート(縦型)のロジックモデル】

作成:Intelligence In Society

フローチャート型ロジックモデルでは、上記の基本の構成要素以外に、別の項目を追加項目として記載した形も広く利用されています。

「現状分析・課題」の追加は、対象とする社会課題についてその現状と課題を明記することにより、先に「事業ありき」で、事業とその成果・目的が論理的整合性の不十分なまま組み合わされる事態を防ぐ効果があります。

「事業外要因」の追加は、モデルに記載されていない外部要因が最終成果に大きな影響を与える場合に、事業化できない要因については外部要因として整理し、その影響を適切に認識・把握することを可能にします。

また、後述の具体的事例で示すロジックモデルは、「施策」「方向性」を追加項目として記載したモデルです。

【現状分析・課題を追記したロジックモデル】

作成:Intelligence In Society

【事業外要因による影響を追記したロジックモデル】

作成:Intelligence In Society

②表型のロジックモデル
国や自治体などの行政機関が作成するロジックモデルに多く見られるのが表型のロジックモデルです。
以下の例は横に構成されていますが、縦に構成されるものもあります。Excelやスプレッドシートなどでも作成できるため作成がしやすいこと、多くの文字数を書き込めることなどの利点から広く活用されています。

【表型のロジックモデル】

作成:Intelligence In Society

③体系図型のロジックモデル
左から「最終成果」「中期成果」「直接成果」「事業・活動」の順番で記載され、矢印によってロジックの流れを表現するのではなく、左側に「目的」、右側にそれに対する「手段」、という関係性の積み重ねによって全体が構成されます。
「目的から出発して必要な手段を考える」という点を最も端的に表現するロジックモデルであり1、フローチャート型などの詳細なロジックモデルを作成する前に、まず体系図型で作成してみることで、大枠の内容・方向性を整理する、という使い方も可能です。

【体系図型のロジックモデル】

作成:Intelligence In Society

具体的な作成事例

以下の作成例は、ある自治体が主体となり、社会的企業やNPOなどと協力しながら、「介護職人材の不足」という社会課題の解決に向けた取り組みを行うプログラムを想定した、フローチャート(横型)のロジックモデルです。

「介護職人材の不足が解消された状態」を最終的に目指す社会の姿(=「最終アウトカム」)と設定し、その目的を実現するための手段とロジックが、「活動/アウトプット」→「直接アウトカム」→「中間アウトカム」という流れで表現されており、目的を実現するための手段は、具体的な「事業」の形に落とし込まれています。

この事例では、具体的な「事業」がその論理的背景である「施策」「方向性」という軸でも整理されており、「施策」が個々の「事業」を通じて「最終アウトカム」につながるロジックがより明確に示されています。

作成:Intelligence In Society

また、以下の事例は、自治体が将来の人口減少に対する備えとして、地域への定住促進を目指す取り組みについてのロジックモデルです3。表型と体系図型を組み合わせた形で、表形式のフォーマットの中に目的と手段の関係が組み込まれることで全体が構成されています。

最終アウトカムである「自治体の知名度・イメージの向上」の実現に向けた手段にあたる中間アウトカムが、「知る」「体感する」「気付く」というキャッチフレーズで表現され、これを見る人が共通のイメージを持ちやすい工夫がされていることも特徴です。

習志野市「習志野市シティセールスコンセプトBOOK 2nd」をもとに、Intelligence In Society作成

作成におけるポイント

質の高いロジックモデルを一度で作成することは難しく、納得のいくものが作成できるまで、何度も作り直すことで徐々に良いものにしていくことが重要です。また、取り組みの主要な関係者とともに作成することで、関係者の間に事業に対する当事者意識や、事業の目的や手段に対する共通理解を醸成することができます。

ロジックモデルの作成においては、以下のポイントに留意しつつ、誰と・いつ・どのように作成するか、についても十分な検討が必要です。

  • 最終成果には、共通の理解・イメージを持つことが可能な内容を設定する
    上記の介護業界の事例では、例えば最終成果が「魅力のある介護業界の実現」「介護サービスの健全な発展」といった表現だった場合、人によってその理解やイメージすることが異なる可能性があり、関係者の間で実現したい成果についての共通理解を得ることができません。
  • 実現したい社会の状態と、そのための手段を正しく区別する
    例えば「未経験からの介護職への転職手段が整備されている」という状態は、「介護職人材不足の解消」など、より上位の目的に対する手段として存在するはずのものです。
    本来手段に該当する内容が、「目指す成果」として設定されている場合、手段が目的化しており、より本質的な目的についての整理が不十分である可能性があります。
  • 成果の測定・定量的な把握に対する可能性を検討する
    成果は必ずしも定量的に把握可能なものである必要はなく、定量化が難しくても、実現すべき社会の状態が明確に示されたものであることが重要です。
    一方で、定量的な情報は、目的の達成に対する進捗や課題の有無を可視化し、事業の改善に資する有用な情報を提供します。可能な限り成果を定量的に把握する工夫をすることは、より効果的に成果の実現を図る上での重要なポイントの一つです。
  • 最終成果に影響する重要な要因が対処され、把握されている
    ロジックモデルに記載された事業による直接成果が最終成果に与える影響が小さく、モデルに記載されていない外部要因が最終成果に大きな影響を与える場合、その事業は目指す成果に対して不十分です。
    成果に影響する重要な要因に対して事業を行うと共に、事業化できない重要な要因がある場合は、外部要因としてその影響が適切に把握されていることが必要です。
  • 作成後も継続的に見直し、アップデートを繰り返す
    作戦の構造(目的・手段)をしっかりと把握・記述し、継続的にその質を高めることは、ロジックモデルを作成する重要な目的の一つです。
    ロジックモデルは一度作成して完成ではなく、事業を通じて得られる新たな情報や、事業を取り巻く社会状況の変化に応じて継続的にアップデートされ、事業に関わる人々にとって信頼できる道標であることが重要です。

ここまでロジックモデルの目的や類型、具体的事例について解説しました。ロジックモデルは、事業やプログラムなどの取り組みの質に大きな影響を与えるものであり、プログラム評価や社会的インパクト評価などの実施においても必須のツールです。

ロジックモデルに関連するトピックについての詳細は、以下のページをご覧ください。


参考文献・注記:
1. 佐藤徹(2021)『エビデンスに基づく自治体政策入門』, 公職研
2. 北大路信郷(2015)「政策評価モデルにおけるロジック・モデルとプログラム評価の有用性」『平成26年度政策評価における統一研修』
3. 習志野市(2022)「習志野市シティセールスコンセプトBOOK 2nd」

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