アウトカム指標|アウトプットとの違いと設定方法

この記事では、プログラム評価や社会的インパクト評価における「アウトカム指標」について、その意味や類似する「アウトプット」との違い、指標の適切な設定方法について具体例を交えて解説します。

アウトカムとアウトプットの違い

それぞれの意味と具体例

事業やプログラムについて、プログラム評価や社会的インパクト評価を通じてその価値を明らかにする際、適切に設定されたアウトカムに基づき評価を行うことが極めて重要です。一方、アウトカムと似た概念に「アウトプット」があり、アウトカムの特定には、この両者の違いを正しく理解し、区別することが必要となります。

アウトカム(成果)
事業実施後に、事業の対象となった個人や集団、社会にあらわれる状態の変化1

アウトプット(産出)
活動の結果、または活動実施により生み出される財・サービスや状態など1

なお、アウトカムは成果が実現される時間軸やその効果の波及プロセスによって、事業による直接的な成果を表す「直接アウトカム」、最終アウトカムの実現に貢献する成果を表す「中間アウトカム」、最終的に実現を目指す社会の状態を表す「最終アウトカム」の3つに分けられ、特に「最終アウトカム」は「インパクト」とも呼ばれます。

例として、生活困窮状態にある若年層に対して、SNSを使ったコミュニケーションによるアウトリーチを行うことで、必要な支援に関する情報の提供や、支援の情報を得るための方法の伝達を行うプログラムを考えます。

このケースの「アウトカム」には、下記のロジックモデルに示されているように、その時間軸に応じて以下のような内容が設定されます。

  • 対象者が、必要な支援に関する情報を得る/対象者が、支援の情報を得るための方法を知る ⇒ 直接アウトカム
  • 対象者が、自身が求める支援を主体的に得られるようになる ⇒ 中間アウトカム
  • 対象者の生活困窮が軽減し、安定して日常生活を送れるようになる ⇒ 最終アウトカム

一方、「アウトプット」には以下のように「活動の結果」に関する内容が設定され、「活動の成果」を意味する「アウトプット」とは区別されます。

  • 広告LPの流入数
  • LPのクリック数
  • SNS登録者数
  • コンタクト/情報提供数

作成:Intelligence In Society

両者の重要な相違点

アウトカムとアウトプットの最も本質的な違いは、どの視点から物事を見るかという点です。「アウトカム」は、事業やプログラムの対象である個人や集団、社会などの視点から、事業がこれらの対象に及ぼした影響を捉えるものであるのに対して、「アウトプット」は、あくまで事業やプログラムの視点から、その機能性や有効性、効率性などを捉えるものです。

これは、上記ケースにおけるアウトカムの記述が全て、「対象者が」「対象者の生活困窮が」という形で、事業の対象やその状態を主語にした表現となっているのに対して、アウトプットの記述は事業活動の結果や状態に関する表現となっていることから理解できます。

この違いを理解することは、事業の成果としてのアウトカムを特定するにあたって極めて重要です。また、プログラム評価の文脈においては、アウトカムが、プログラムの価値の判断やプログラム全体に関する意思決定に重きを置く「アウトカム評価」の対象となるのに対し、アウトプットは、プログラムの進捗状況や運営上の課題の把握を目的とした「プロセス評価」の対象となる点も、両者の重要な違いです。

適切なアウトカム指標の設定

アウトカムの特定はなぜ容易ではないのか

事業やプログラムの適切なアウトカムを特定することは、事業の成果や価値を正しく把握する上で重要ですが、それが容易ではないケースも多く存在します。例えば、自治体の行政評価で導入されている業績測定においては、導入団体のほとんどが「評価指標の設定」、特に適切な成果指標(アウトカム指標)の設定を課題としています2

要因①:事業の不確実性

アウトカムの特定が難しい要因の一つに、事業やプログラムが抱える不確実性があります。アウトプットは、必ずしも想定したようなアウトカムに繋がるとは限らないという不確実性を持っています。

先の例で言えば、SNSに登録した対象者に行った情報提供(=アウトプット)による影響が、対象者による支援の主体的な獲得という行動の変化や、生活困窮の軽減という状態の変化ではなく、別の形で表れる可能性があるということです。その場合は、事業やプログラムが対象者に与えた影響をより的確に表すアウトカムを特定し、それに基づく評価を行うことが望ましいと言えます。

要因②:事業を取り巻く複雑さ

また、事業やプログラムを取り巻く複雑さも、アウトカムの特定を難しくする要因の一つです。事業やプログラムが生み出す影響は多岐にわたることが多く、そのアウトカムも多様に定義することが可能です。

先の例では、SNSに登録し情報提供を受けた対象者が、自身の知り合いで同じようなニーズを抱える人に直接情報を共有することで、活動を通じて直接接点を持った対象者以外のより多くの若年層に対して、行動の変化や状態の変化が生じる可能性があります。その場合、事業の真のアウトカムは、対象者以外の人々への影響も含めたものとなります。

加えて、アウトカムの特定には、事業やプログラムにおけるステークホルダーの視点を反映させることが求められます。ステークホルダーが複数存在し、評価に対するニーズが異なる場合、全てのステークホルダーの要求を満たすアウトカムの特定は困難となります。そのような場合には、どのステークホルダーの視点を反映させたアウトカムを特定するのかについて、意思決定を行う必要が生じます。

アウトカム指標の設定方法

アウトカム指標の設定に標準化された方法があるわけではありません。ここでは、その一つのアプローチとして、アウトカム指標の設定方法を紹介します3

1. 事業/プログラムの目標、ゴールを整理する

アウトカムを特定する際の基礎となるのは、事業やプログラムにおける目標やゴールです。目標やゴールには、事業が最終的に目指す状態が示されているため、これを参考にアウトカムを特定していきます。

その際、ロジックモデルを作成することで、目標やゴールがどのようなプロセスによって実現されるのかについて、論理的な流れを可視化することができます。特に、事業の具体的な詳細が決まっていない構想段階においては、大枠の内容・方向性を整理することに適した「体系図型のロジックモデル」4を活用することで、候補となるアウトカム群の特定が行いやすくなります。

「体系図型のロジックモデル」については、以下のページの「代表的な類型」をご覧ください。

2. アウトカム群の構造を整理する

次に、上記で特定した候補となるアウトカム群を、時系列レベルとその影響範囲の2つの軸で整理します。時系列レベルの整理は、上述の「直接アウトカム」「中間アウトカム」「最終アウトカム」の3つの区分で行います。ロジックモデルを作成している場合は、ロジックモデル上で既に整理がされている場合も多いでしょう。

一方、アウトカムの影響範囲による整理は、そのアウトカムが「①個人など個の対象における変化に関するものか」「②グループなど特定の集団における変化に関するものか」「③地域社会や高次の組織体などにおける変化に関するものか」によって行います。

先の例では、「プログラムの対象者個人における変化」が①、「生活困窮状態にある若年層という集団における変化」が②、「若年層の困窮状態の改善によって生じる地域社会における変化」が③、というように整理することができます。

3. 評価するアウトカムの優先順位を決める

候補となるアウトカム群について、限られたリソースの中でその全てを評価対象とすることは現実的ではなく、工数に見合う価値も得られせん。アウトカム群について、「評価実施の必要性」と「評価実施の可能性」の両面から優先順位付けを行います。

必要性の観点では、評価を行う目的が重要となります。評価を行う目的が、事業の改善に役立つ情報を得るための内部利用なのか、資金提供者などのステークホルダーに対して事業の成果を報告することなのかによっても、「必要性」の判断は異なってきます。

また、可能性の観点では、技術面(適切な測定方法が存在するか)、倫理面(データの取得が倫理的な問題を伴わないか)、リソース面(費用や工数の面で許容可能か)などを踏まえて判断を行います。

これらの点を踏まえて優先付けられたアウトカム群の中から、実際に評価を行うアウトカムを選び、そのアウトカムの測定に最適と考えられる指標を選択することで、アウトカム評価の対象となる「アウトカム指標」が設定されます。

ここまで、「アウトカム指標」について、その意味やアウトプットとの違い、適切な設定方法について解説しました。

「アウトカム指標」に関連する記事については、以下のページをご覧ください。

参考文献・注記:
1. 源由理子・大島巌(2020)『プログラム評価ハンドブック-社会課題解決に向けた評価方法の基礎・応用-』, 晃洋書房
2. 4. 佐藤徹(2021)『エビデンスに基づく自治体政策入門』, 公職研
3. 安田節之 (2011)『プログラム評価ー対人・コミュニティ支援の質を高めるためにー』, 新曜社 などを参考。

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