因果推論|反実仮想とは、その意味と具体例

この記事では、因果推論における「反実仮想」について、その意味や潜在的結果モデルとの関係性、課題とその対処法を具体例をもとに解説します。

「反実仮想」とは何か

「因果効果」の推定における反実仮想

因果効果」とは、事業や政策、治療など何らかの「処置」を行った際に、目的とする状態の達成に対して実際に処置がどの程度寄与したのか、を表します。「反実仮想」は、この因果効果を推定する際の基礎となる枠組みを提供するものです。

例えば、健康診断を受けることが、実際にどの程度健康の維持に寄与するのかを定量的に把握するためには、健康診断を受けることの健康維持に対する「因果効果」の推定が必要です。

しかし、定期的に健康診断を受けている人と受けていない人の目的変数(健康寿命の平均値など)を純粋に比較した結果は、多くの場合、私たちが最も知りたい問いに答えるものとはなりません。

なぜなら、定期的に健康診断を受けている人は、そうでない人に比べてもともと健康に対する意識が高く、食事や運動などについて健康維持に必要な行動をより多く取っている可能性が高いため、両者の結果の純粋な比較は、健康診断の健康維持に対する「因果効果」を過大に評価する可能性が高いからです。

このような、処置による「因果効果」を適切に推定するために必要となる概念が、「反実仮想」です。

反実仮想と「潜在的結果モデル」

因果推論における「反実仮想」とは、「反事実」について考えることで因果関係を定義するアプローチを指します。「反事実 (counterfactual)」とは、「仮に重要な条件が異なっていた場合に起こったであろうこと」1を意味する言葉で、実際に生じた「事実 (factual)」と対になるものです。

健康診断の例では、仮に定期的に健康診断を受けている人々を「グループA(=処置群)」、受けていない人々を「グループB(=統制群)」とすると、因果効果の推定において必要なのは、グループAとグループBの結果の純粋な比較ではなく、以下のような「事実(①)」と「反事実(②)」を比較したものとなります。

  • グループAの実際の結果(事実)― ①
  • 仮にグループAの人々が定期的に健康診断を受けていなかった場合の結果(反事実)― ②

このような「反事実」を用いた因果推論の枠組みが、「潜在的結果モデル」(potential outcome model)と呼ばれるものです2

潜在的結果モデルは、「仮に処置が行われなかった場合」という『反事実』を仮定し、「(他の条件は全て同じ前提で)仮に処置が行われなかった場合、結果がどうなっていたか」という『潜在的結果』を考えることで、因果効果を推測する考え方です。

潜在的結果モデルでは、因果効果は以下のように表わすことができます3

E [ Y1 | D = 1 ] - E [ Y0 | D = 1 ]  または、 E [ Y1 - Y0 | D = 1 ]

ここで、E は期待値、Y1は処置を受けた場合の結果、Y0は処置を受けなかった場合の結果、D = 1は処置群であること(D = 0は統制群)を表します。また、「|」は右項で条件付けた際の左項の状態を意味します。

つまりこのモデルは、「処置群が処置を受けた場合の結果の期待値(上記①)」から「処置群が処置を受けなかった場合の結果の期待値(上記②)」を差し引いたものであり、グループAの人々(=処置群)における健康診断を受けることの平均的な因果効果 (average causal effect on treated)、を表しています。

また、潜在的結果モデルを用いると、グループAとグループBの結果を純粋に比較したものは、以下のように、「グループAにおける因果効果」と、両グループの人々における元々の属性の違いから生じる「選択バイアス」の2つから構成されていることが分かります4

潜在的結果モデル
反実仮想

作成:Intelligence In Society

このように、反実仮想をもとに潜在的結果モデルによって因果関係を定義することで、2つのグループの純粋な比較には選択バイアスが含まれてしまう場合においても、処置による因果効果を表現することが可能となります。

「反実仮想」の課題と対処法

反実仮想と「因果推論の根本問題」

ただし、「反実仮想」による因果関係の特定には、重大な問題があります。それは、「事実」と「反事実」の両方を「同時に」観測することはできないということです。

上記の例では、「グループAの実際の結果」(事実)は観測が可能であるのに対して、「仮にグループAの人々が定期的に健康診断を受けていなかった場合の結果」(反事実)は、実際には観測することができません。

このように、グループAに属する人の目的変数(健康寿命の平均値など)について、定期的に健康診断を受けていた場合と受けていなかった場合を同一条件で両方観測することは不可能であり、これを「因果推論の根本問題」と呼びます5

因果推論の根本問題は、潜在的結果モデルによって因果関係が定義されることによって、はじめて明確になったものです6。これによって、(1つの個体に関する)因果関係を把握することは実際には不可能であり、因果関係を特定するには、その前提について何らかの制約を置くことや、条件を緩和することが必要であるという事実を理解することができます。

対処法としてのRCT

この問題に対する最良の解決策が、「ランダム化比較試験(RCT)」と呼ばれる手法です。「因果推論の根本問題」のもとでは、一個人や一個体について処置効果を測定することは不可能ですが、複数の個人や個体から成る「グループ」における「平均的な処置効果(Average Treatment Effect)」を測定することは可能と考えられます。

この場合、処置を受けるグループと受けないグループについて結果を比較し、その差を処置効果としますが、その際に重要なのは、2つのグループが処置の有無以外の要素においては十分に類似していることです。この前提が崩れていると、2つのグループの結果の差が、処置の有無によって生じたものであることを特定できません。

RCTは、2つのグループの対象者を選ぶ際に、その対象をランダム(無作為)に割り当てます。ランダムに割り当てことによって、(一定以上の対象者数があれば)2つのグループが統計的に同質の集団となり、2つのグループの結果の差を、処置の有無によるものと特定することが可能となります。

健康診断の例では、仮に健康診断の受診有無をランダムに割り当てことができ、健康診断の受診有無以外の点において2つのグループが同質の集団となれば、両グループの結果の差を、健康診断の受診による因果効果と判断することが可能です。

RCTの限界と代替手法

RCTは適切に実施できれば、因果効果の推定において非常に有効な手法です。しかし、特に社会科学領域においては、RCTの実施に必要な労力や費用、対象者をランダムに割り振ることに伴う倫理的な問題などから、実施が難しいケースも多いのが現実です。

また、既に実施中あるいは実施済みの事業や政策の評価においては、事後的にRCTを行うことは当然不可能であり、RCTの適用自体ができないケースも多く存在します。その一方で、RCTが適用できないケースにおいても、因果効果の推定を可能にする様々な手法が近年開発されています。

これらの手法では、RCTを(分析者が観測データの生成過程を完全に掌握する)「実験デザイン」とした場合、それと同等ではないものの、類似した「自然実験」や「疑似実験」と呼ばれる状況を上手く活用することで、RCTが適用できないケースにおいても因果効果の推定が可能な状況をつくり出します。

これらの代替手法に関する詳細は、以下のページをご覧ください。

ここまで、因果推論における「反実仮想」について、その意味や潜在的結果モデルとの関係性、課題とその対処法を解説しました。

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参考文献・注記:
1. Kosuke Imai, Nora Webb Williams. (2022) “Quantitative Social Science – An Introduction in tidyverse,” Princeton University Press.
2. Rubin, D. B. (1974) “Estimating causal effects of treatments in randomized and nonrandomized studies,” Journal of Educational Psychology, 66(5), 688–701
3. 説明を簡潔にするため、一般的なモデル表記よりもシンプルな表現を採用しています。
4. Joshua D. Angrist, Jörn-Steffen Pischke. (2009) “Mostly Harmless Econometrics: An Empiricist’s Companion,” Princeton University Press.
5. Holland, Paul W.(1986) “Statistics and causal inference,” Journal of the American Statistical Association, Vol. 81, No. 396, pp. 945-960
6. 川口康平・澤田真行 (2024)『因果推論の計量経済学』日本評論社

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