効率性評価とは|その意味・目的と評価手法

この記事では、プログラム評価における「効率性評価」について、その意味・目的や、主な評価手法、評価における注意点などを解説します。

「効率性評価」とは何か

「効率性評価」の意味

社会課題の解決に向けた取り組み全体を「プログラム」と捉え、体系的な評価を通じて、その取り組みの価値の判断に資する情報や、取り組みの質の改善につながる情報を得る活動を、「プログラム評価(Program Evaluation)」と呼びます。プログラム評価は5つの階層によって構成されますが、その1つを成すのが「効率性評価 (Efficiency Analysis)」です。

効率性評価は一般的に、「プログラムによるコストを、アウトカムに関連付けるためのフレームワーク1などと定義され、プログラムの実施のために投入された資源が、それによってもたらされたアウトプット(活動の結果)やアウトカム(成果)に対して妥当で、正当化できるものであるかについて評価を行います。

狭義には、効率性評価は「費用便益分析 (Cost-Benefit Analysis: CBA)」と「費用効果分析 (Cost-Effectiveness Analysis: CEA)」の2つを合わせたものを指しますが、より広義には、「プログラムの包括的なコストと、プログラムが提供するモノやサービスの質の間の最適な組み合わせ」2を意味する「Value-for-Money (VFN)」と密接な関係にあります。

「VFN」は政府・自治体による事業・政策や、国際機関による開発プログラムなどの計画や実施に関する意思決定のための情報を提供する枠組みですが、「VFN」の中心的な構成要素が、「CBA」と「CEA」から成る狭義の「効率性評価(Efficiency Analysis)」です。

どのような問いに答えるものか

効率性評価の中心的なコンセプトは、「プログラムに価値がある(あった)か否かを判断するためには、その実施に費やされたコストを、それが生み出したアウトプット・アウトカムに対して評価しなければならない」というものです3

プログラム評価における問いの中心は、「プログラムが適切に導入されたか、どの程度の効果を発揮しているか」です。しかし、この問いと同じくらい、「プログラムが成果を生むためにどの程度のコストが費やされ、それは達成したベネフィットに対して正当化できるものなのか」を知ることは、プログラムの価値を判断する上で重要です。

この問いを通じて、プログラムによるコスト(費用)とベネフィット(便益)を比較することは、プログラムの拡大、継続、終了などを判断する際の最も重要な情報となります。

プログラム評価における具体的な問いには、以下のようなものが挙げられます。

  • プログラムによる活動は、費やされたコストに対してどの程度価値があったか?
  • プログラムにおいて、資源はどの程度有効に利用されたか?どうすれば、より有効に活用することができたか?
  • 関係するステークホルダーは、プログラムからどの程度の価値を受け取ったか?期待をどの程度満たしたか?
  • プログラムによる便益は、プログラム終了後にどの程度持続するか?
  • プログラムの主要な活動に関して、別のアプローチが存在したか?した場合、それはなぜ採用されなかったのか?
  • プログラムの実施で得られた情報から、最善のアウトカムを実現するためにどのような行動が取られているか?
  • プログラムは他の取り組みをどの程度補完したか?他の取り組みと重複しなかったか?

効率性評価における4つの視点

「Value-for-Money (VFN)」としての効率性評価は、「4E」と呼ばれる4つの視点から整理されることが一般的であり、これらはプログラムの支援者などが意思決定を行う際の基準として位置づけられています。

①Economy
適切な質のインプット(資源)が、適正な価格で調達されているか?

②Efficiency:
インプットから、どの程度効率的にアウトプットが生み出されているか?

③Effectiveness:
プログラムによるアウトプットは、どの程度効果的に意図した効果を達成しているか?

④Equity:
プログラムによるベネフィットは、どの程度公平に分配されているか?プログラムは、社会的に疎外された人々にどの程度リーチできているか?

これら4つの基準は、ロジックモデル上では以下のように位置付けることができます。①Economyが主に「投入(インプット)」に関連する基準である一方、②Efficiencyは「投入(インプット)」が「産出(アウトプット)」に変換されるプロセスに関連します。

また、③Effectivenessは「産出(アウトプット)」と「成果(アウトカム)」の間の繋がりに関するものであり、④Equityはプログラムの全プロセスを対象とした基準です。

Value-for-Money 4E基準

INTRAC (2020)3をもとに、Intelligence In Society作成

効率性評価の実施方法

いつ効率性評価を行うべきか

効率性評価は、公共事業などのように初期投資が大きく、予見性の高いプログラムにおいては計画段階で実施され、事業の実施有無の判断に使われることが多い一方、対人プログラムなどにおいては、事業の実施中あるいは終了後に行われることが一般的です。

プログラム開始後に実施する効率性評価は、プログラムが一定期間実施され、インパクト評価によってその効果が実証されている状態で、プログラムの永続化や規模拡張の余地を検討するために実施されるケースが多くあります。

また、プログラムの改善に資する情報を得ることを目的とする「形成的評価」、プログラムの価値の判断やアカウンタビリティの確保を目的とする「総括的評価」のどちらの目的においても、効率性評価は活用されます。

なお、既に実施されているプログラムについて効率性評価を行う際は、以下の条件を満たしていることが望ましいとされています1。もしこれらの条件を満たしていない場合、適切な評価や意味のある評価の実施が難しい可能性があるため、評価の実施を検討する際に確認することが重要です。

  • プログラムのコストを、他の活動や取り組みによるコストと分けて把握することが可能か?
  • プログラムが開発段階を完了しており、一定の効果があることが明らかになっているか?
  • プログラムによるインパクトの内容とその程度について、明確に把握することが可能か?
  • プログラムによるベネフィットは、金銭価値に換算できるか?
  • 既存のプログラムの継続有無の判断だけでなく、代替プログラムの検討も評価のスコープに含まれているか?

主な評価手法:CBA、SROI、CEA、CUA

効率性評価において使用される評価手法には、主なものとして以下に示す4種類があります。

「1. 費用便益分析 (CBA)」と「2. 社会的投資収益率 (SROI)」の2つは、異なる目的・ゴールを持つプログラム間の比較や、単一のプログラムがどの程度有益かを評価するために使用することができます。

一方、「3. 費用効果分析 (CEA)」と「4. 費用効用分析 (CUA)」の2つは、類似する目的・ゴールを持つプログラム間の比較において使用することが可能です。

1. 費用便益分析 (Cost-Benefit Analysis: CBA):
プログラムによるアウトプットとアウトカム(ベネフィット)を金銭価値に換算することで、プログラムによるベネフィットが、そのコストを上回っているか否かを把握します。また、複数のプログラムをその費用便益比 (cost-benefit-ratio)に応じてランク付けする、特定のプログラムの価値をその費用便益比に基づいて判断する、といった評価に使用することが可能です。

2. 社会的投資収益率 (Social Return on Investment: SROI):
CBAと類似していますが、SROIでは、「女性の権利向上」「社会サービスへのアクセスの改善」といった、社会的・経済的・環境的な無形のアウトカムを、金銭価値に換算する点に大きな特徴があります。その上で、費用便益比 (cost-benefit-ratio)によって、プログラムの総体的な価値を把握することが可能です。
また、CBAと同様に、異なる目的・ゴールを持つ複数のプログラムを比較し、特定のプログラムを選ぶ際にも使用することができます。

3. 費用効果分析 (Cost-Effectiveness Analysis: CEA):
「子供の栄養スコアの改善度」「新たな雇用の創出数」といったアウトカムを、それに必要なコストに関連付けることで、良く似通った目的・ゴールと、それを表す指標を持つ複数のプログラムを比較する際に使用されます。
CBAと異なり、アウトカムの金銭価値への換算を行わないCEAは、プログラムによるベネフィットがそのコストを上回っているかに関する情報を提供しません。そのため、CEA単体では、プログラムが全体として価値があるか(良好なValue-for-Moneyを有しているか)を判断することはできません。

4. 費用効用分析 (Cost-Utility-Analysis: CUA):
プログラムによるベネフィットが無形、または容易に金銭価値に換算できない場合において、プログラムによるアウトカムからターゲット集団の人々がどの程度の満足(効用)を得たか、に基づいて複数のプログラムを比較します。
医療領域におけるQALY (Quality-Adjusted-Life-Years: 質調整生存年)による評価などがCUAの典型で、QALYによって複数の健康関連プログラムを比較する、特定のベンチマーク指標と比較する、といった評価が行われます。

評価の実施における注意点

実際に効率性評価を実施する際には、特に以下の点について注意し、十分な検討を行うことが必要です。

①費用・便益に関する仮定

特にプログラムの開発・計画段階において行う効率性評価では、まだ実際には発生していないプログラムのコスト・ベネフィットについてどのような仮定・前提を置くかによって、プログラムの効率性に対する評価は大きく変化します。

過去に同様のプログラムを実施した経験がある場合は、その実績を参考にすることができますが、その場合でも、社会・経済的な条件の変化によって、プログラムの実際のコスト・ベネフィットは異なるものとなる可能性があります。

コスト・ベネフィットに影響する可能性のある要因について、可能な限りその影響を仮定・前提に反映させる努力をするとともに、小規模なパイロットプログラムの実施が可能な場合には、パイロットプログラムから得られる情報を効率性評価に活用することで、評価の精度や妥当性を向上させることが可能です。

②評価の実施に伴うリスク

効率性評価は、プログラムのコストとアウトカムを一定の基準のもとに関連付け、特定のプログラムの価値の判断や複数のプログラムの比較を可能にする点で、限られた資源の有効利用やプログラムの改善に貢献するものです。

一方で、効率性評価に対しては、数値による把握が容易なプログラムや、効果が短期的に表れやすいプログラムがより高く評価され、数値化が難しいアウトカムを持つプログラムや、アウトカムが中長期に及ぶプログラムが適切に評価されない、といった懸念も存在します。

また、効率性評価を通じて、異なる目的やセオリー、インパクト達成までの時間軸などを持つ多様なプログラムが、同一の指標で評価・比較される点についても、懸念する声が存在します。

効率性評価においては、金銭価値換算へ過度に焦点を当てることや、指標の行き過ぎた単純化、倫理的な問題を伴う指標の設定(人の命や関係性の金銭換算など)といった点に注意しながら、評価の実施可否や実施方法について検討することが重要です。

ここまで、プログラム評価における「効率性評価」について、その意味・目的や、主な評価手法、評価における注意点などを解説しました。

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参考文献・注記:
1. Peter H. Rossi, Mark W. Lipsey, Howard E Freeman. (2003) “Evaluation: A Systematic Approach (Seventh Edition),” SAGE Publications
2. World Bank Institute and Public-Private Infrastructure Advisory Facility (2013) “Value-for-Money Analysis Practices and Challenges: How Governments Choose When to Use PPP to Deliver Public Infrastructure and Services,” https://ppp.worldbank.org/public-private-partnership/sites/default/files/2022-05/VFM.pdf (2025年11月5日最終閲覧)
3. INTRAC for civil society (2020) “VALUE FOR MONEY” https://www.intrac.org/app/uploads/2017/01/Value-for-Money.pdf (2025年11月5日最終閲覧)

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