仮説検証|その意味と事業における役割

この記事では、「仮説」と「仮説検証」について、その意味や種類、事業における役割について、具体例をもとに解説します。

「仮説」と「仮説検証」の意味

「仮説」とは、現時点で答えの分かっていないある「問い」に対する、暫定的な「仮の答え」のことを指します。ここで重要な点は、まず先に明確な「問い」が定義されており、仮説はその問いに対する「仮の答え」となっていなければならない、ということです。

一方、「仮説検証」は、明確な「問い」に対する「仮説」を実証するために、必要なデータを収集・分析することで仮説の正しさを検証することを意味します。

仮説
現時点で答えの分かっていないある「問い」に対する、暫定的な「仮の答え」

仮説検証
「問い」に対する「仮説」を実証するために、必要なデータを収集・分析することで仮説の正しさを検証すること

そうして検証された仮説は、「問い」に対する一つの答えを提供すると同時に、「実態やその要因に対するより正確な理解には、さらに何を明らかにする必要があるのか」についての情報を提供し、「問い」の質を高めるための示唆を与えてくれます。

事前に設定された「問い」、つまり分析を通じて「何を明らかにしたいのか」が明確になっておらず、漫然と収集されたデータを眺めて後付け的に作り出された「仮説」は、本来の意味での「仮説」ではありません。

このように、「問い」とそれに対する「仮説の検証」の2つを繰り返すことで「問い」と「仮説」の質を高め、実態やその要因に対する理解と打ち手の精度を向上させることが、事業の改善や、それを通じた社会課題解決などの事業目的達成の確率を高めることにつながります。

作成:Intelligence In Society

「仮説」の種類と事業における役割

「仮説」と呼ばれるものは、その内容や目的によっていくつかの種類に分類することができます。この違いを認識しておくことは、事業に関する仮説検証の精度を高める上で重要です。

なぜなら、事業を行う際に作成されるロジックモデルなどからも明らかなように、事業は多数の「仮説」の集合体として成立しているからです。したがって、事業に関する一つ一つの仮説の質の高さが、事業そのものの質の高さに直結すると言っても過言ではありません。

仮説の分類方法には様々な形が考えられますが、ここでは以下の3つに整理します1

①事実関係に関する仮説
Whatの問いに対する答えとしての仮説。「実態はどうであるのか、どの程度なのか」という問いに答える。

②理論仮説
物事が生じている要因や背景に関する、抽象的な理論の仮説。Whyの問いに対する答えとしての仮説であり、「何故そうなっているのか」という問いに答える。

③実証仮説
理論仮説を実証するための、具体的なデータのレベルの仮説。実証仮説を検証することにより、理論仮説が「間接的」に検証される。

以下の、「介護職人材不足の解消」に向けた自治体の仮想的な取り組みに関するロジックモデルの例で、これら3つの仮説分類について説明します。

まず、最終成果に記載された「介護職人材不足の解消」の背後には、『介護職人材は、必要な人数に対して将来大幅に不足するのではないか』『その不足は、持続的な介護サービスの実現に重大な影響を及ぼすのではないか』という、「①事実関係に関する仮説」が存在します。

次に、施策に記載された「定着の促進」は、『なぜ介護職人材が不足しているのか』というWhyの「問い」に対する、『介護職人材の業界への定着に課題があるからだ』という「②理論仮説」に当たります。

同様に、方向性に記載された「キャリア構築促進」は、『なぜ介護職人材の業界への定着に課題があるのか』というWhyの「問い」に対する、『介護職人材が自らのキャリアを描きにくい環境となっているからだ』という「②理論仮説」です。

また、事業に記載された「資格取得費用の補助」「処遇改善に対するインセンティブ付与」は、上記の理論仮説を実証するための「③実証仮説」に当たります。資格取得費用補助などの事業を行うことが、定着の促進につながることをデータ等により示すことで、『介護職人材の業界への定着が進まないのは、自らのキャリアを描きにくい環境となっているからだ』という理論仮説を、間接的に検証する役目を果たします。

作成:Intelligence In Society

これらの仮説の区別を理解した上で、事業に関する適切な「問い」と「仮説」を設定し、仮説検証を通じてこれらの質を高めていくことが、事業の質の向上と目指す成果の達成における重要なポイントとなります。

なお、その際に必要となるのが、精度の高い「効果検証」です。仮説と効果検証の関係性については、以下のページをご覧ください。

 

ここまで、「仮説」と「仮説検証」について、その意味や種類、事業における役割について解説しました。効果検証に関する全ての記事は、以下のページからご覧いただけます。

参考文献・注記:
1. 佐藤郁哉 (2015) 『社会調査の考え方[上]』東京大学出版会

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