この記事では、「疑似相関(見かけ上の相関)」について、その意味や代表的ケース、因果関係の成立条件との関係性、疑似相関に対処する技術を具体例をもとに解説します。
<目次>
疑似相関とは何か
疑似相関の意味
疑似相関(spurious correlation:見かけ上の相関)とは、実際には因果関係が存在せず、単なる相関関係であるにも関わらず、因果関係があるように見える関係性のことを指します。
ここで「因果関係」とは、2つの要因の間にある「原因」と「結果」の関係性であり、
という表現で表されるものです。一方、「相関関係」は、2つの要因が「同時に発生している」「同時に変化している」という関係性であり、
Xが変化しているとき、Yも変化している
という表現で表される関係性に当たります。
例えば、「ビニール傘の販売額」と「スリップ事故の発生件数」という2つの要因を考える場合、これらはともに雨の日に増加することから、データを分析すれば一定の相関関係が得られると考えられます。
一方で、これら2つの要因はともに「降雨(降水量)」という共通の原因によって別々に生じている可能性が高く、「ビニール傘の販売額が増えることによって、スリップ事故の発生件数が増える」、あるいは逆に、「スリップ事故の発生件数が増えることによって、ビニール傘の販売額が増える」という「因果関係」は成立していないと想定されます。
このように、真の因果関係が存在しないにも関わらず、一見すると因果関係があるように見える関係性が「疑似相関」に当たります。
清水(2017)を参考に、Intelligence In Society作成
疑似相関の代表的ケース
上記の例では、真の因果関係が存在しないことが比較的明らかでしたが、多くのケースでは、疑似相関と真の因果関係を判別することは容易ではありません。そのため、疑似相関の影響が想定されるケースでは、真の因果関係を知るために予めその影響をコントロールする手段が取られることもあります。
プラセボ効果と二重盲検法
疑似相関の代表的なものに、実験などが人間の行動や心理に与える影響によって引き起こされる「プラセボ効果 (placebo effect)」があります。
プラセボは「偽薬」を意味しますが、本来効果のない偽薬を投与された患者の症状が、偽薬の暗示的な効果によって改善することを「プラセボ効果」と呼び、投薬以外の実験において生じる対象者への暗示的な効果ついても同じ呼び名が使われています。
また、実験の対象者だけでなく、実験を行いその効果を「評価する側」も、「薬が投与された」という事実を知っていることから生じる心理的な暗示によって、無意識のうちに評価が影響を受ける可能性があります。このような「期待」が持つ影響は「ピグマリオン効果 (pygmalion effect)」と呼ばれます。
これらの、処置を受ける側とそれを評価する側の双方に生じる心理的な影響への対処法として広く用いられている方法が、「二重盲検法 (DBT: double blind test)」です。二重盲検法は、処置の対象者だけでなく、それを評価する者も、誰がどのグループに割り当てられているのかを知らない状態で実験を行うことで、疑似相関ではなく、真の因果関係を正しく把握するための手法です。
因果関係の成立条件と疑似相関
因果関係の成立に必要な条件
一般的に、2つの要因間の関係が確かに因果関係であることを示すためには、以下の3つの条件が成立していることの証明が必要と考えられています。そして、疑似相関はこのうちの①と②の条件が満たされている一方、③の条件が満たされていないケースと整理することができます。
②方向性(時間的先行)
③特異性(疑似相関の排除)
①共起関係(相関関係)
1つ目の条件は、原因と見なされる要因Xと、結果と見なされる要因Yの間に、「XとYが同時に発生している」という共起関係や、「XとYが同時に変化している」という相関関係が成立していることです。「Xが生じているとき、Yも生じている」「Xが変化しているとき、Yも変化している」といった形で表現される関係性に該当します。
先の例では、「ビニール傘の販売額増加と、スリップ事故の発生件数増加が同時に起きている」「薬が投与されたとき、患者の症状が改善している」という関係性に該当します。一方、この条件のみでは、その関係性が真の因果関係なのか、疑似相関なのかを判別することはできないことが分かります。
②方向性(時間的先行)
2つ目の条件は、原因と見なされる要因Xと、結果と見なされる要因Yの間に、「XがYに対して時間的に先行している」という方向性が成立していることです。「Xが生じると、Yも生じる」「Xが変化すると、Yも変化する」といった形で表現される関係性に該当し、1つ目の条件の場合とは違って、XとYの関係に「X→Y」という方向性が明示されています。
ビニール傘の例では、2つの事象の間に「ビニール傘の販売額増加→スリップ事故の発生件数増加」という時間的な方向性がない場合、この条件を満たさないため、真の因果関係ではないと推定することができます。
一方、投薬の例では、偽薬の場合であっても「偽薬の投与→症状の改善」という時間的な方向性が成立するため、この条件を加味しても、その関係性が真の因果関係なのか、疑似相関なのかを判別することができません。
③特異性(疑似相関の排除)
3つ目の条件は、原因と見なされる要因Xと、結果と見なされる要因Yの間に、要因Xによって特異的に要因Yが引き起こされている、という関係が成立していることです。「(別の要因ではなく)Xが生じることによって、Yも生じる」「Xが変化することによって、Yも変化する」という形で表現される関係性に該当します。
投薬の例では、「(プラセボ効果ではなく)投与された薬そのものの効果によって、患者の症状が改善する」という関係性が成立することを意味します。この3つ目の条件まで満たされることで初めて、その関係性が真の因果関係なのか、疑似相関なのかを判別することが可能となります。
疑似相関に対処する技術
因果推論
社会現象やビジネス領域における因果関係のように、様々な要因が関係する複雑なケースにおいて、「(他の要因による影響ではなく)要因Xを変化させることによって、要因Yが変化する」ということを、実際のデータを用いて示していくための理論と手法を提供する枠組みが「因果推論(統計的因果推論)」です。
因果推論は、真の因果関係と疑似相関を正しく区別するための考え方の枠組みです。因果推論の代表的な考え方には、「反実仮想」というものがあり、これは、「(仮に)要因Xが変化しなければ、要因Yも変化しなかった」という表現によって、実際には観測されなかった「反事実」について考えることで、因果関係を明らかにするアプローチです。
因果推論には、代表的なランダム化比較試験(RCT)と呼ばれる実験手法や、「自然実験 (Natural Experiment)」と呼ばれる、本当の実験のように人工的にコントロールされているわけではないものの、まるで実験が起こったかのような状況がうまく利用できる状態を利用した手法などが開発されています。
因果推論に関する詳細は、以下のページをご覧ください。
因果探索
また、因果推論の一つで、比較的新しい技術に因果探索(統計的因果探索)があります。一般的な因果推論では、因果構造を既知とした上で、どのような条件の下でデータから因果効果の有無や大きさやを特定できるかを明らかにしますが、因果探索では、因果構造を未知とした上で、どのような条件下でデータをもとに因果構造を推測できるかを明らかにします。
また、数式・数値による表現が中心の一般的な因果推論とは異なり、因果探索では、因果構造をグラフィカルモデルによって図として表現することで、多様な要因間の複雑な因果関係を視覚的に理解することが可能です。
投薬の例では、「薬の投与→患者の症状の変化」という因果構造が既知であり、知りたい対象は実際の因果関係の有無や強さであるため、一般的な因果推論の手法が採用できます。一方で、知りたい対象が「スリップ事故増加の因果関係」である場合、スリップ事故発生件数の変動の背景には多様な要因が存在していることが想定され、予めその因果構造を知ることはできません。
このようなケースにおいて、因果構造を「未知」として状態で、得られるデータをもとにスリップ事故発生件数の変動の背景にある変数とその因果関係を明らかにするための手法が、因果探索です。
因果探索に関する詳細は、以下のページをご覧ください
ここまで、「疑似相関(見かけ上の相関)」について、その意味や代表的ケース、因果関係の成立条件との関係性、疑似相関に対処する技術を解説しました。
当記事に関連するトピックについての詳細は、以下のページをご覧ください。
また、因果推論・機械学習に関する全ての記事は以下のページからご覧いただけます。
参考文献:
◦佐藤郁哉 (2015) 『社会調査の考え方[下]』東京大学出版会
◦林岳彦 (2024) 『はじめての統計的因果推論』岩波書店
◦清水昌平 (2017)『統計的因果探索』, 講談社