因果推論の根本問題とは|その意味、生じる理由や解決手法

この記事では、「因果推論の根本問題」について、その意味や、この問題が生じる理由、問題に対する解決手法を具体例をもとに解説します。

「因果推論の根本問題」とは何か?

ある2つの要因の関係が、偶然生じたものや単なる相関関係ではなく、「確かに因果関係である」ことを示すための理論的枠組みを(統計的)因果推論と呼びます。これは「(他の要因による影響ではなく)要因Xを変化させることによって、要因Yが変化する」ということを、実際のデータを用いて示していくための理論と手法を提供する枠組みに当たります。

因果推論の根本問題 (Fundamental Problem of Causal Inference) とは、因果推論において因果関係を特定するための代表的な考え方である反実仮想(後述)が持つ、「1つの個人や個体について、処置があった場合となかった場合を同一条件で両方観測することは不可能である」という問題点を指す言葉です。

因果推論の根本問題反実仮想に基づく因果推論のアプローチにおける、「1つの個人や個体について、処置があった場合となかった場合を同一条件で両方観測することは不可能である」という問題点。

因果推論の根本問題は、後述する「潜在的結果モデル」によって因果関係が定義されたことではじめて明らかになったものですが、この問題が明確になったことで、(1つの個体に関する)因果関係を把握することは実際には不可能であり、因果関係を特定するには、その前提について何らかの制約を置くことや、条件を緩和することが必要であるという事実が明らかとなりました。

以下では、因果推論の根本問題がなぜ生まれるのかについて、反実仮想や潜在的結果モデルなどの関連する概念と紐づけて解説します。

なぜ「因果推論の根本問題」が生じるのか?

因果関係の特定における課題

先ほど、因果関係の特定には「(他の要因による影響ではなく)要因Xを変化させることによって、要因Yが変化する」ということを示す必要があると述べました。これは一見、それほど難しいことに見えませんが、実際にはこれを示すことは簡単ではありません。

「要因Xが変化したとき、要因Yが変化する」という関係を示すだけでは、別の要因ZがXとYの両方に影響を与えており、要因Zの変化によってXとYが同時に変化していた可能性があるため、単なる相関関係である可能性を排除できません。また、要因Xと要因Zが共にYに影響を与えており、その影響を区別できていない場合、因果関係の強さや方向性を過大・過少に判断してしまう可能性があります。

例えば、健康診断を受けることが、実際にどの程度健康の維持に寄与するのかを定量的に把握するためには、健康診断を受けることの健康維持に対する「因果効果」の推定が必要です。しかし、定期的に健康診断を受けている人と受けていない人の目的変数(健康寿命の平均値など)を純粋に比較した結果は、多くの場合、私たちが最も知りたい問いに答えるものとはなりません。

なぜなら、定期的に健康診断を受けている人は、そうでない人に比べてもともと健康に対する意識が高く、食事や運動などについて健康維持に必要な行動をより多く取っている可能性が高いため、両者の結果の純粋な比較は、健康診断の健康維持に対する「因果効果」を過大に評価する可能性が高いからです。

反実仮想と潜在的結果モデル

このような、処置による「因果効果」を適切に推定するために必要となる概念が、反実仮想です。反実仮想は、「反事実 (counterfactual)」について考えることで因果関係を定義するアプローチを指します。反事実とは、「仮に重要な条件が異なっていた場合に起こったであろうこと」を意味する言葉で、実際に生じた「事実 (factual)」と対になるものです。

健康診断の例では、仮に定期的に健康診断を受けている人々を「グループA」、受けていない人々を「グループB」とすると、因果効果の推定において必要なのは、グループAとグループBの結果の純粋な比較ではなく、以下のような「事実(①)」と「反事実(②)」を比較したものとなります。

グループAの実際の結果(事実)― ①
仮にグループAの人々が定期的に健康診断を受けていなかった場合の結果(反事実)― ②

このような反事実を用いた因果推論の枠組みが、潜在的結果モデル(potential outcome model)と呼ばれるものです。

潜在的結果モデルは、「仮に処置が行われなかった場合」という『反事実』を仮定し、「(他の条件は全て同じ前提で)仮に処置が行われなかった場合、結果がどうなっていたか」という『潜在的結果』を考えることで、因果効果を推測する考え方です。

以下はグループA・Bの純粋な比較と反実仮想のイメージです。グループA・Bの純粋な比較では、両グループの差の中に健康診断を受けることによる真の効果の他に、選択バイアスの影響(ここでは両グループの属性の違い)によって生じた差分が含まれてしまっています。

反実仮想と潜在的結果モデル

作成:Intelligence In Society

ただし、この反実仮想による因果関係の特定には、重大な問題があります。それは、「事実」と「反事実」の両方を「同時に」観測することはできないということです。上記の例では、「グループAの実際の結果」(事実)は観測が可能であるのに対して、「仮にグループAの人々が定期的に健康診断を受けていなかった場合の結果」(反事実)は、実際には観測することができません。

グループAの人々について期間を分けて2回観測すればよい、と考えたくなりますが、この場合、1回目と2回目の観測では様々な条件が変化している可能性があり、「全く同じ」条件は成立していないと考えることが妥当です。

このように、グループAに属する人の目的変数(健康寿命の平均値など)について、定期的に健康診断を受けていた場合と受けていなかった場合を同一条件で両方観測することは不可能であり、これを「因果推論の根本問題」と呼びます。

「因果推論の根本問題」を解決する手法

①RCT(実験手法)

因果推論の根本問題に対する最良の解決策が、ランダム化比較試験(RCT)と呼ばれる手法です。因果推論の根本問題のもとでは、一個人や一個体について処置効果を測定することは不可能ですが、複数の個人や個体から成るグループにおける平均的な処置効果 (Average Treatment Effect)を測定することは可能と考えられます。

RCTは、2つのグループの対象者を選ぶ際に、その対象をランダム(無作為)に割り当てます。ランダムに割り当てことによって、(一定以上の対象者数があれば)2つのグループが統計的に同質の集団となり、2つのグループの結果の差を、処置の有無によるものと特定することが可能となります。

健康診断の例では、仮に健康診断の受診有無をランダムに割り当てことができ、健康診断の受診有無以外の点において2つのグループが同質の集団となれば、両グループの結果の差を、健康診断の受診による因果効果と判断することが可能です。

RCTに関する詳細は以下のページをご覧ください。

②自然実験手法

自然実験 (Natural Experiment) は、本当の実験のように人工的にコントロールされているわけではないものの、まるで実験が起こったかのような状況がうまく利用できる状態のことを指します。これは、RCTによる実験データが得られない状況で、制度がもたらす偶然や偶発的な事象などによって、あたかも実験を行ったように因果効果の推定を行うことができることを意味します。

処置割り当ての無作為化を通じてバイアスを制御し、因果効果の推定を可能にするRCTに対して、自然実験の強みは、「境界付近における処置割り当ての無作為性」や、「2つのグループの時系列トレンドの平行性」といったデータの持つ特性を利用することで、RCTが実施できない状況においても、適切な因果効果の推定を可能にする点にあります。

自然実験手法に関する詳細は、以下のページをご覧ください。

ここまで、「因果推論の根本問題」について、その意味や、この問題が生じる理由、問題に対する解決手法を解説しました。

当記事に関連するトピックについての詳細は、以下のページをご覧ください。

また、因果推論に関する全ての記事は以下のページからご覧いただけます。

参考文献:
◦ Kosuke Imai, Nora Webb Williams. (2022) “Quantitative Social Science – An Introduction in tidyverse,” Princeton University Press.
◦ Rubin, D. B. (1974) “Estimating causal effects of treatments in randomized and nonrandomized studies,” Journal of Educational Psychology, 66(5), 688–701
◦ Joshua D. Angrist, Jörn-Steffen Pischke. (2009) “Mostly Harmless Econometrics: An Empiricist’s Companion,” Princeton University Press.
◦ Holland, Paul W.(1986) “Statistics and causal inference,” Journal of the American Statistical Association, Vol. 81, No. 396, pp. 945-960
◦ 川口康平・澤田真行 (2024)『因果推論の計量経済学』日本評論社

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